《コバンザメ式旅行法》
ノストラダムスの言葉によって、アジア横断をすることは決まった。
すべてのビザはそろえてあるので、旅はいつでも始められる。問題は旅行について、あんまり調べていないことかな。
しかし、中国へ入ってしまえば、あとはずるずると行けるだろう。今度の旅は中国から始めることになるが、正直言うと、僕は中国に対してあまりいい印象を持っていない。
昔、世界一周旅行の途中で、香港で中国のビザを取り、広州へ鉄道で入ったことがある。
広州から中国をずるずるっと北へ上っていこうと、ぼんやり考えていた。しかし最初に入った広州駅前の雑踏と、とにかく人の多さ、(広州は自転車でうろついたが)自転車と車の交通事情の悪さ、闇両替商のミエミエの騙しのテクニック、ホテルのいいかげんな作り、など全体的な印象が最悪で、上海へ行く予定を切り上げて、とっとと珠江を下る船で香港へ逃げ帰ってきたのだ。
中国はとにかく広いので、好き嫌いに関わらず、こんなところをぐずぐずだらだら旅していたら、どれだけ時間がかかるかわからない。
つまり、とっとと通り過ぎたいものだ。それに、どうせクンジュラブ峠を越えて、パキスタンへ入るのが一つの目的なのだから、僕の旅行ルートは中国のシルクロード経由になる。
つまり、北京から西安、蘭州、敦煌、トルファン、ウルムチ、カシュガル、それからクンジュラブ峠を越えてパキスタンへ、というルートになるだろう。さて、世界旅行主義の原則(「本当の旅の三原則」参照)により、僕が旅に出る場合は「一人で、片道切符で、旅行期間を定めずに」出発しなければならない。
また、世界一周旅行の定義のなかには、「日本の出国または帰国の一方は船を利用すること」というものがある。だから、船を使わなければならない。
日本から中国への船といえば、上海へ行くものがよく知られているが、上海に入ると旅が中途半端に長くなる。
調べてみると、神戸から天津へも週に一便船があって、それが「燕京号」。電話をすると、7月16日の便に空席があるという(というか、いつでも、だいたい席は空いているようだ)。
僕は、出発の2日前に、東京駅八重洲を出たところにある「チャイナエクスプレスライン」の事務所で切符を購入する。
切符は購入したが、中国の個人旅行などは、どうしたらいいかさっぱりわからない。
船の運航予定通りに、天津に昼過ぎに到着したとして、はてさて、どうしたらいいのだろう?天津についての情報は、全くない。
天津甘栗というのが有名だから、天津市内は、おそらく、甘栗の木がたくさんあって、大通りには甘栗並木があって、市内には甘栗の甘い香りが漂っているくらいは、誰でも容易に想像できるだろう。
天津港には、世界各地に甘栗を輸出するための甘栗岸壁があり、船が着けば、ミス甘栗が甘栗の花束(それがどういうものか、想像もつかないが)を渡してくれるはず、と、そこまでは、旅行経験がなくとも、通常の社会常識で判断できる。
しかし、それ以外は、全く情報がないのだ。
その日のうちに天津から北京へたどり着いたとしても夜になるだろうし、ホテルはどうしよう…。
第一、天津で泊まるとしても、ホテルを見つけたり、それから、北京行きの切符を買ったりするのに、中国語なんかさっぱりできないのに…。しかし、チャイナエクスプレスの事務所で話を聞いてみると、船の中で、天津から北京への直通バスの予約を受け付けるという。
「船の中にたくさん旅行者がいるから、友達になって、いろいろと話を聞けばいいのよ」とアドバイスを受ける。なるほど、それなら、大丈夫だ。
一人で中国旅行をするのは、考えるだけでうんざりするが、船の中で誰か中国に詳しい旅行者を見つけて、その人にくっついていけばいいのだ!
これは、非常に高度な旅行法で、「世界旅行者協会」では「コバンザメ式旅行法」と呼んでいる。
次回はさっそくその「コバンザメ式旅行法」の実践例を示してみたい。
実は、僕の中国旅行は、このコバンザメ方式なしには全く成り立たなかったのだから。
sweet roast chestnuts will welcome me in tianjin