「世界冷や汗ひとり旅」《あとがき : 香田証生さんを悼む》
2004年5月、「イラクの中心で、バカとさけぶ」の著者、フォトジャーナリストの橋田信介さんと、彼の甥の小川功太郎さんが取材活動の最中に、イラクで殺された。
2人のフリージャーナリストの死は、イラクから退避して、安全なところで発表記事をまとめてジャーナリストを気取っている、根性なしの記者をたくさん抱えている、日本のマスコミから大いに悼まれた。
2004年10月には、イラクでは個人旅行者の香田証生さんが殺された。
驚いたことに、ただの個人旅行者の香田さんには、日本の官民一体化した猛烈な非難が浴びせられた。
その理由は、特にマスコミが、自分たちが怖がって避けている場所に、個人旅行者が入ってうろついていたことに、面子を潰されて激怒したからだ。
僕は日本人であることを、このときほど恥ずかしく思ったことはないね。
日本では、個人で自由に、自分の心の赴くままに、自分のやりたいことをやった人間は非難される。
同じようなことをしても、それが社会に受け入れられた金儲けで、マスコミにコネがあると、マスコミは一斉に持ち上げて、その死を日本中で悲しむ。
香田さんを非難し、橋田さんをほめたたえる感性、それこそが、日本には本当の自由がない立派な証明だ。
日本には自由がない。日本では自分自身の自由な考えを発表することも出来ないし、自由な生き方をするのも不可能だ。
そんな国だから、日本は先進国中で一番の自殺率を誇っているわけだよ(笑)。
好奇心のままに、国境を越えた若者を一斉に非難するような国を誰が愛することができるだろう。
人は何か仕事をするために生きているわけではないし、社会に貢献するために存在するのでもないよ。
人はただ、自分の心の向く方向へ、何の理由もなく自由に向かう。
そしてそれが、海外個人旅行者だ。
僕はただの個人旅行者の香田さんの死を、個人旅行者であるからこそ、より深く、より本質的に悲しむ。
だって、僕のこの本は「冷や汗」がテーマだが、冷や汗をほんの一歩スベって踏み外すと、そこには死が待っているのだから。
そして個人旅行者は、それもまた十分に覚悟しているのだから。
世界旅行者