道路が寸断@カラコルムハイウェー/中国

一人前のバックパッカーとしての基本、それは、アジアからヨーロッパへのユーラシア横断旅行だ。
でも、時間と金さえあれば、もちろんどんな旅行でも可能だ。

アジア横断も、その時々の政治状況によって影響されはするが、詳しいガイドブックもあるし、旅行情報も多いので、昔ほど難しくなく、アジア横断は日本人旅行者にとっては定番化しているね。
日本人の好きな世界一周旅行も、実際はこのアジア横断がメインで、それに東ヨーロッパと米国旅行を加えただけのものだ。

ただひとつ、中国とパキスタンを越えるクンジュラブ峠越えという障害が立ちはだかっている。
クンジュラブ峠越え、これこそ世界中のバックパッカーの憧れなんだ。
アジア横断とは言っても、クンジュラブ峠を越えたのか、越えてないのか、これで大きく評価が違うんだよ。

だって、このクンジュラブ峠だけは、いくら金があっても通れない場合があるからね。
クンジュラブ峠を越えることは、天(天候)地(道路の状態)人(交通手段)三要素がうまく組み合わさって初めて通過できるというすごいところなんだよ。

まず5月から11月の夏の時期しか通れない。
さらには、天候がよくなければ危なくて通過できない。
また、常に崖の崩落が起きているので、いつ通過不能になるかわからないんだ。

僕がカシュガルに着いた時は、なんと2週間もバスが運行していなかったんだから…。
しかしバスは動いてなくても、ランドローバーをチャーターして通ることは可能な場合もある。

僕はカシュガルの空港で知り合って、ホテルまでのタクシーをシェアした香港のカップル、デイビッドとカルメン、と情報交換をしていた。
2週間も不通だと聞いて、いったんは目の前が真っ暗になった。
わざわざ中国奥地まで来て、クンジュラブ峠を越えられないなら、世界旅行者としての筋が通らないからね。

しかし、バスは通れないとしてもランドローバーをチャーターすれば何とかなるという情報を入手する。
それならと、4〜5人集めてチャーターする話を進める。
すると、突然、翌朝バスが通るという。
こうなれば、一般バスでクンジュラブ峠を通過したほうが話のネタになるので、絶対バスがいい。

このカラコルムハイウェーを通るバスは、中国側のカシュガルを出発し、急峻な山に挟まれた、激しい川(これはインダス川の上流だと思うが)の流れる谷間を走る。
カシュガルから出発したバスは、険しい道を通り、穏やかなカラクリ湖の横を通って、タシュクルガンで一泊する。
カシュガルからタシュクルガンへの道、これが一番危なかったよ。

なにしろ、一応舗装された形跡のある道路は通じているのだが、その道路は片方では崖崩れで通過不能になっている。
また片方からは激しい川の流れで道路が侵食され、道路が川へ落ち込んでいるわけだ。

だから、応急処置された道のないところを通って行かなければならないんだよ。
ランドローバーを借り切ったりしていれば、かなり強引に進めるのだろうが、馬力のなさそうな大型バスに乗った一般人旅行者にとっては、これは大変だ。
なにしろ、バスの幅ぎりぎりのところを通るので、ちょっと運転を誤ったら、川に転落すること確実だ。
道は川の右岸を走る。
つまり左側に川の激しい流れがある。
僕は左側の窓際の席に座っていたので、窓から下を見たら、道路なんか見えなかったよ(涙)。
見えるのは川の激しい流れだけだった。
このままバスのタイヤがちょっとズレて道を踏み外せば、バスはコロッとひっくり返って転落する。
そうなると僕はバスの下側になって、もう絶対に命はなかったろうね…。
ただ、それに気が付かない旅行者諸君はけっこうはしゃいでたけどさ。
でも、右側の席に座ると見えるものは岩の壁だけなので、ここは絶対に左側の窓際の席を取るべきです。

時々は、乗客がバスを降りて、バスを軽くして、バスが危ない場所を通過するのを待ったりする(写真参照)。

それでも、タシュクルガンに夜の10時に到着。
ここでは交通飯店の宿泊料も含まれているが、なんと、ホテルには水が出ない。
それで僕と同行の中国人カップルは、ちょっと高級なパミールホテルへ宿泊した。

翌朝、タシュクルガンを出発すると、すぐに中国の出国審査がある。
そこからは、比較的平坦な路を通り、素晴らしい景色を見て、クンジュラブ峠に達する。

ここで、バスを降りて、記念写真を取ったりするわけだ。
そのまますんなりとパキスタンのスストに到着して、パキスタンの入国審査を受ける。
バスはここでオワリ。

旅行者はここで両替をして、次の目的地への交通手段を探す。
マイクロバスが何台か停車しているが、目的地と人数が合わないとなかなか出発しない。
それで、ここからパスーへ行く組みと、そのままカーリマバードへ行くグループに別れて、人間の奪い合いをするわけだ。

僕はパスーなんか日本人には合わないと思って、カーリマバードへ直行したけどね。
香港カップルと僕、あと日本人旅行者を4人集めて、マイクロバスをチャーターする。
あたりが暗くなるころ、カーリマバードへ到着する。

降りる日本人旅行者のみなさんに僕の世界旅行者名刺を配ると、「あっ、あの有名なみどくつさんですか!」と、感動した声が戻った。
世界旅行者の名前は、本当に旅行する人たちの間では、すでに伝説になっていたんだね。
【写真】カラコルムハイウェー、バスを降りて、バスが道なき道を通るのを待つ。
【旅行哲学】クンジュラブ峠を一般バスで通るには、神の導きが必要だ。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20050304