ペルセポリス/シーラーズ/イラン
シーラーズの町へ着いたら、やることは決まっている。
それは、ペルセポリスへ行く事。
イランは、だだっ広い割りに、他にはほとんど見るものがないんだからさ(涙)。
モスクなどというものは、イスラム諸国へ行けば、うんざりするほど見られるから、わざわざイランへ行く必要がない。
だから、どんなツアーにも含まれていて、誰でも行こうと考えるのが、ペルセポリスの遺跡だよね。
ところがこの遺跡ほどガッカリする物はないらしい。
僕が北朝鮮へ行ったときのツアーで一緒だった若者が、個人でイランへ行って、その時のレポートをe-mailで送ってくれたのだが、それには「わざわざやってきて、ガッカリしました」とだけ書いてあった。
彼はイランで病気になったとメールで送ってきたから、きっとその病気は「ペルセポリス失望症候群」だったのだろう。
すでに中東の遺跡として、パルミラ(シリア)やペトラ(ヨルダン)を見てしまっている世界旅行者としては、ペルセポリスを見ないわけには行かない。
何でも「地球の歩き方」では「中東の3P」として、パルミラ、ペトラ、ペルセポリスを紹介してるんだから。
もちろんこれは、旅行経験のない三流ライターが、頭ででっち上げた話に決まっている。
しかし、アジア横断をするのに、わざわざペルセポリスを避けるのもおかしな話だ。
というか、誰でもみんな「失望した!」ってことはさ、どんな失望なのか、知らないとダメだ。
いいものも悪いものも、どうでもいいものも、いろいろと見て、そこまで知って、はじめて世界旅行者になれるんだから。。
シーラーズからペルセポリス遺跡へ行くのはチョー簡単。
シーラーズのホテルに泊まれば、もちろんホテルが、ちゃんとタクシーをチャーターしてくれる。
でもそれでは、誰でもできる事にならないかな。
誰でも出きる事を、誰でもがするようにやっては、世界旅行者としてはつまらない。
そこで、町の通りを走っているタクシーを自分で捕まえて、自分で行くことにする。
しかし、考えてなかった事が一つあって、それはタクシーの運ちゃんが、英語を理解しないと言うこと。
2、3台止めて話しかけても、料金の交渉どころか、どこへ行くのかさえ、伝えられない。
「こりゃ、こまったぜ!」と、道路脇で立ちすくむ。
そういう時、世界旅行者は神に祈る。
「神様、僕がペルセポリスへ行く運命ならば、ここで一つ、なにか助けてくれませんかね」ってね。
すると、「よっしゃ!」という声が響く。
するするっとタクシーが僕の前に止まって、そこから頭の先からつま先まで全身を真っ黒の衣裳で隠した年のころなら28,9という美女がタクシーから降りようとする。
70歳くらいの人のよさそうな運転手さんが乗っている。
「この運転手さんは、案外とハーバード大学か何かに留学経験がある元大学教授で、革命で職を追われたんじゃないかな。すると英語がぺらぺらなんだよなー」と、英語で「ペルセポリスへ行ってくれないか」と話しかける。
しかし、残念ながら、英語が全く通じない。
「おかしーなー、神様は常に、世界旅行者を守るはずなんだが…」と、ちょっと考え込むと、タクシーから降りてきた美女が、「ペルセポリスへ行きたいんですか?」と英語で話しかけてきた。
彼女が運転手と僕の通訳をしてくれて、あっという間に、話が決まってしまった。
料金も、ホテルに頼むより、ずずっと安い。
「さすが神様だなー♪やることが早いや!」
「ついでに、この美女も付いてて、遺跡を案内してくれて、今晩はエッチもあったりして」と、期待して美女を見つめると、美女は「そこまでは面倒見きれまへん!」との言葉を残して、さっさと行ってしまった。
つまり、彼女が僕を守る「旅行神」の化身だったわけだね。
彼女の後姿に「南無阿弥陀仏」と、手を合わせる。
で、ペルセポリスは予想通り、だだっ広いだけで、ちっともポイントのない遺跡だった。
それでもあちこちうろついて、面白そうなレリーフの壁を見つける。
自分を入れた写真でも取りたいが、個人旅行というのの問題点は、自分の写真を取りにくいってことなんだよねー。
困ってボーっと立ってたら、ちょうどそこに野球帽をかぶったベルギー人のおじさんが出現したので、声を掛けて、互いの写真を撮った。
ザムザムコーラを飲みながら、互いの旅の話をして、別れ際に「良い旅を!(ボンボワヤージ)」と言ったら、「世界旅行者よ、ペルセポリスはたいして見るところがなくて、悪かったな。イランは広いだけだから、エスファハンヘは飛行機で行きなさい。切符は取れるようにしておくから」との言葉を残して、おじさんは煙と共に消えた。
このベルギー人もまた、旅行神だったんだね。
旅行神の消えた後に「南無妙法蓮華経」と、手を合わせた。
というわけで、遺跡の前で待たせておいたタクシーですんなりと帰りましたとさ。
もちろん運ちゃんには、決めた料金のほかにチップを足してあげて、走り去るタクシーに「二礼二拍一礼」で、正式にかしわ手を打ちましたよ!
【写真】ペルセポリス遺跡のレリーフ壁の前の世界旅行者
【旅行哲学】「ペルセポリスはわざわざ見るものではない」と言うためには、一度見なければならない。
この話 http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20040823