中央郵便局@ホーチミンシティ/ベトナム

1994年に、タイ、カンボジア、ベトナムを、現地でビザもバスや飛行機のキップも全部手配して、たった10日で走りまわったことがあった。
そのとき、ベトナムのホーチミンシティ(しかしみんな、昔の名前サイゴンと呼ぶ)の中央郵便局へ行った。
サイゴンの中央郵便局は天井も高く内装も豪華な、非常に立派なものなので、見るだけでも話のネタになるのでオススメです。
ホールの中央に長いテーブルがあって、そこで手紙を書けるようになっている。
ところで、海外で絵葉書を出したいと思ったときは、葉書を売っているところを捜す必要はない。
郵便局に行けば、そのまわりに必ず絵葉書を売ってあるものだからね。
さて、1994年の夏のある日、僕がすたすたと郵便局に近づくと、3、4人の小さな子供たちが走り寄ってきた。
子供たちの手には絵葉書が握られている。
彼らは路上で絵葉書を売っていたのだ。
ただその時は、前日に町をうろついたときに買った葉書を持っていたので、特に新しく買う必要はなかった。
しかし、ちいさな子供たちに囲まれたら、日本人なら無視するわけにはいかないよね。
そこで「あとで、あとで」と適当な返事をして、郵便局に入った。
僕が絵葉書を書くときは、ギャグを入れたり、一人一人に合う話を考える。
結構な時間が経って、葉書を投函し、外に出ようとしたら、先の子供たちが見える。
そこで、郵便局の端から出てサイゴン大教会の横を、知らない振りをしてこっそり早足で通り過ぎようとした。
しかしそれは無理だった。
一人の小さな女の子が僕を見つけて、一生懸命走り寄って来て、絵葉書を差し出す。
続いて、他の子供たちも寄ってくる。
そして「あとで、あとで!」と声を揃えて叫び出した。
この子供たちは、日本人がその場を逃れるために必ず言う「あとで」という日本語を知っていたのだ。
仕方なしに、一人からハガキ10枚のセットを買った。
立ち去ろうとすると、ものすごく小さな女の子が、泣きそうな顔をして、鼻水を垂らしながら、絵葉書を持ってどこまでも着いてくる。
これは本当に困った。
僕はこの女の子からも絵葉書を買ってしまったよ。
2002年に同じ中央郵便局へ行ったが、あの子たちはいなかった。
それはそうだろう、もう立派な大人になってるのだろうから。
中央郵便局にはあのころより人も多く、日本人観光客の女の子たちが写真を取っていた。
いつもの世界旅行者ならば、必ず女の子たちに話しかけて、彼女らの写真を取ってあげて、自分の写真も取ってもらうのだが、なんとなくその気分になれなかったよ。
だって僕の心は1994年に飛んでいたのだから…。
【写真】通りも賑やかな2002年のサイゴン中央郵便局
【旅行哲学】その場逃れで「あとで」と言うと、きっちりとあとで始末を付けさせられる。