《空港で出会った女子大生にくっついて、プランバナン遺跡へ》

空港から安宿までどうやってたどり着くかというのは、これが本当に本物の旅行者の腕の見せ所だ。
空港からタクシーで一流ホテルへ乗り付けるようでは、いくら旅をしていても、旅の本質はわからないよ(笑)。
たいていの空港には貧乏人用に公共交通機関が乗り入れている。
しかもタクシーなどよりもこちらの方が信用出来るのは言うまでもない。
例えば成田空港からは京成線が一番便利で安いし、羽田空港からはモノレールを使って浜松町駅に出るのが一番便利だ。
ヒースロー空港からは地下鉄がロンドン市内と結んでいるし、JFKからはちょっとバスに乗って地下鉄の駅まで行ける。
こういう所ではタクシーを利用すること自体がおかしい。
たとえ会社が金を出すという場合でも、タクシーを利用したということにして、交通費を請求して自分の生活費に使うというのが、貧乏人の正しい旅行の方法だ。
ただ、発展途上国の空港になると、空港自体は非常に豪華でも市内とのアクセスまでは手が回らないと言う所もある。
そういう所でも少し歩いて空港のそばの道路に行けば、ローカルバスが走っているに決まっている。
ただ、大きな荷物を持って地元の人で混雑したバスに乗り込むというのは、物価の安い所では余りにやり過ぎという気もする。
安く旅行したというので自己満足はするだろうが、地元の人の迷惑だ。
こういう場所では、タクシーが安いのなら利用するのは当然の話だ。
ただタクシーが信用出来ないというのはあくまでも基本だ。
出来るだけ(特に女の子は)一人では乗らないようにすることが大切だし、乗るとしても、その前に料金の交渉をしなければならない。
世界中のかなりの空港でタクシー料金がチケット制になっているのは、土地カンのない旅行者から暴利をむさぼるという事件が多いということの証拠なのだから。
さて、開発途上国の空港に1人で到着し、公共交通機関はあるにしても解りにくかったり、土地不案内である場合は、どうしたらいいのだろう。
まず、同じタイプの旅行者を見つける。
本物の旅行者ならば、相手も同じようなことを考えているものだ。
その目的は無事にダウンタウンの安宿にたどり着くために互いに協力するということなので、別に本気で友達になるという必要もない。
まあ、長期「世界旅行者」なんかと本気で友達になったら、後で何をせがまれるかわからないから、よした方がいいんだ。
こういう点で外人は現実的なので利用出来る。しかし、日本人は変に人見知りをしたり「自分はこの土地のことを知っているから、一人でいい」などという、アマチュア的な発想をする。
ツアーに参加して1度訪れただけなのに、知ったかぶりをしてすべてが解ったようなことをしゃべりまくり、役に立たないアドバイスをしまくる、よくいるタイプのリピーターとか言われている連中がそれだ。
1990年の春、オーストラリアからインドネシアへ入って、インドネシアを旅していたときのこと。
チモール島のクパンからバリ島のデンバサール空港に降り立って、荷物を手にした時に「さーて、どの町に行こうか?」と考えた。
もちろん「世界旅行者」を自称する僕のことだから、バリ島には日本人がどっと押しかけるずーっと以前に来たことがある。
クタビーチの外人女性観光客はほとんどトップレスで、日本人サーファーはビーチの隅っこでこそこそとおとなしくしていたものだ。
その頃は金もあったので、可愛い女の子とサヌールビーチにあるバリビーチホテルという最高級ホテルに泊まっていた。
バイクを借りてクタビーチへやって来て、外人旅行者であふれる通りを見て、こうゆう安宿に泊まる本物の旅行者になりたいと憧れたものだ。
しかし、クタビーチは今や余りに俗化されて日本人があふれ、日本人の発情した女の子が男あさりをしているという。
これが本当かどうかはとにかく(実は、本当だったのだが‥‥)あんまり馬鹿な日本人とは付き合いたくないものだ。
クタが駄目なら、別の地区へ行ってもいい。
一度行ったことがあって土地勘があるというだけで同じ所に通い続けるという、よくいるインド旅行者みたいな惨めな人間にはなりたくないものだよね。
まず、こういう観光地の空港には必ずあるインフォメーションを見つける。
バリ島の観光客向けの新聞が手に入った。一応のことが説明してある。
その新聞によると「空港からクタビーチまではタクシーで8700ルピア(600円)かかる」という。
結構な値段だ。
しかしこんな所で観光客がタクシーに乗ればぼられるに決まっている。
だから、タクシーはチケット制になっているかもしれない。
表に出ると、やっぱりそこにはタクシー案内所があって「5000ルピア(350円)でクタビーチまで行きます」という。
さて、ここで安いと喜んで、タクシーに乗り込むようではまだ素人だ。
誰かと相乗りにして更に安くするというのが旅行者の基本的な考え方だ。
辺りを見回すと、あちこちに日本人の顔も見えるが、金持ちそうな家族連れとか「SEXが楽しくてたまらないというカップル」という普通の観光客なので役に立たない。
背の高い外人を見つけた。いかにも長期旅行者らしい民芸調の小さなバッグを一つだけ持って、空港ロビーでも目立っている。
ここには土地感がありそうな雰囲気だ。
こういう奴なら結構情報を知っているだろう。
タクシーに乗ってクタビーチへ行っても自分で安宿を捜すのが面倒なので、こういう旅慣れた奴にくっついて行く「小判ザメ流宿捜し法」を実行することにする。
近寄って行って英語で話しかける。
「どこに行くの?」
雰囲気でおたがい旅行者仲間だと解るので、最初から友達の感じだ。挨拶もしない。
「クタ」
「ここらへん、よく知っている?」
「ああ、今ロンボク島から帰って来たんだけれど、前はずっとクタに泊まってたんだ」
「安い宿知ってる?」
「もちろん。一緒に行くかい?」
「良かった。タクシーに相乗りする奴を捜してたんだ」
「話は決まった。もう1人、あそこにいる奴を捕まえようぜ」
もう1人のそれらしい旅行者(こいつはイタリア人だった)に声をかけて、結局1人当り2000ルピア(140円)の割り勘でタクシーに乗った。
クタに行って、このオランダ人の泊まっていたパンタイ通りに面した安宿「YULIA
BEACH INN」に泊まる。
これがシングルで1泊8250ルピア(580円)。
レセプションにはセイフティボックスまであるきちんとしたホテルで、スタッフも愛想がいい。
レストランもあるし、部屋も綺麗だ。
結局、空港で旅行者を見つけることで安くタクシーに乗った上に、安宿まで簡単に見つけることが出来た。
これが空港から安宿までの典型的な「世界旅行者」の行き方だ。
ジョグジャカルタの場合は、ちょっと違った。
ジョグジャカルタはジャワ島の中央にある古い町で、近くには有名なボロブドールの仏教遺跡がある。
今では日本からバリ島への団体旅行に参加しても、ボロブドール観光が日帰りのオプショナルツアーになっているくらいポピュラーな所だ。
この空港では基本的に長期旅行者を見つけることは出来ない。
長期旅行者は出来るだけ安く旅行するので、この町に来るのには列車やバスを使う。
だから飛行機でジョグジャカルタに来るような奴は、本格的な旅行者としてはちょっと恥ずかしいことだ。
僕がバリ島から飛行機でこの町に来たのは、だから、余り自慢出来ることではない。
夜行バスで16時間かかって35000ルピア(2450円)、飛行機で40分で77300ルピア(5400円)という話だった(でも、いやにバスが高いな。とにかくこの時はこれを信じたんだ)ので、つい齢と体力のことを考えてしまったのだ。
でも、僕ほど旅行者としての基本があれば何をしたって許されるものなのさ(!?)。
さて、こういう空港で外人のまともな旅行者に会えるとは期待していなかったが、しかし旅行では何だって起こるものだから、一応はそういう外人旅行者を捜した。
やはり、いない。
でも、いやに薄汚れた日本人の男がいる。
これは長期旅行者だ。どう見ても、一流商社マンには見えない。
日本人の長期旅行者は変に自慢話が多かったり、独り善がりだったりするのであんまり好きじゃないけれど、その頭の悪さをからかったりするのも、旅の楽しみのひとつだ。
話しかけてみる。
「どこから来たの?」
ありふれた質問をすると「イリアンジャヤです」と、思いがけない答えが返ってくる。
おやおや、結構まともな旅行者か、学術調査関係の人間なのかも知れない。
シリアのパルミラの遺跡やアレッポでオリエント博物館の調査隊に世話になったり、朝飯をおごって貰ったりしたこともある。
ちょっと態度を変える。
「学術調査関係の方ですか?」
「いや。早稲田の探険部なんです」
なーんだ、なんと早稲田の探険部だ。じゃあ大したことはない。
「知ってる知ってる。アフリカで訳の解らない恐竜探険をでっち上げた連中でしょ!」
実はこの件に関しては僕は結構詳しい。
アフリカでこの「探険隊」というグループの残党を世話したこともあるし、この本を書いた首謀者ともLAで会ったことがある。
旅行に関してはほとんど素人の無知な連中だった。
しかし、彼らよりもっと無知なマスコミにうまく取り入って、屑のような本を1冊出した所で、社会に何の影響を及ぼすこともない。
こんな本を金を出して買う人間のレベルは余りに低いし、こんな本を出版しようという3流新聞社(「朝日」とか言ってたっけ)にした所で、まだ「アフリカと言えば人がびっくりするだろう」という程度の感性のレベルの低い時代後れの連中がいるだけなのだ。
こんな連中が頭で考えるより、時代はもうずっと進んでいる。
でも、本多勝一の「カナダエスキモー」をまだバイブルにしているようなこういう遅れた連中は死ぬまで自分達が本物の旅行者からどう見られているかに気付かないのだ。
「どのくらいイリアンジャヤに行ってたの?」
「1か月です」と自慢そうに言う。
あーあ、レベルが低過ぎる。
せめて半年ぐらいいて、酋長の娘でもこましてこい!
東南アジアかなんかの落ちこぼれ日本人の集まってる所で「早稲田の探険部です」と言えば、明治や駒沢の落ちこぼれから見れば、それは大きな顔が出来るかも知れないが(出来ないと思うのだけれど、馬鹿ってどこにでもいるんだ。いやになるほどね)、それはやってはいけないことだ。
本物の旅行者は自分一人の人間性で勝負するものなのだから。
でも、こいつが幾ら馬鹿でも利用出来ればそれでいい。
「ジョグジャの安宿知ってる?」
「知らないんです」
こいつはとことん役立たずだ!
でも、どんな馬鹿でも、少なくともタクシーに相乗りで割り勘にするのには便利だ。
その時、荷物を取るために並んでいる列の向こうに日本人らしい女を2人見つけた。
いかにも旅慣れてなさそうだし、ツアーに混じっているようでもない。
この女を誘えば今日は一緒に飲める!うまく行けば出来る!と、頭にひらめく。
最悪でもタクシーの相乗りがもっと安くなる。
「早稲田」に荷物を見てくれるように頼んで、女の子の所へ行って、話しかける。
「ジョグジャの町まで一緒のタクシーで行かない?」
「えー、私たち、よく知ってる人がいますから‥‥」
「誰か迎えに来るの?」
女の子と話をしている所へ、地元の民族衣装っぽいものを着た日本人の女が現れた。
挨拶をして事情を聞くと、この女の子はジャワで音楽の勉強をしていて、初めに僕が声を書けた女の子たちは彼女の大学の後輩ということなのだ。
訳の解らない「早稲田」よりはこっちの方がずっと面白そうだし、ジョグジャの土地勘もあるようだ。
「一緒に町まで行こうよ」と誘う。
「でも、私たちここからプランバナン遺跡に寄るんです」が答だ。
なんだ、なんだ!そのプランバナン遺跡とは。聞いたことないぜ。
定番のガイドブック「東南アジア・シューストリング」を見ると「ジャワ最大のヒンズー教寺院遺跡群」とある。
となると、これは面白そうだ。
ジョグジャカルタに来てボロブドール遺跡を見るだけじゃツアー客と変わりない。
ここでは何かひとつ変わった芸をしておかなきゃならないと思っていた所だ。
そのプラン何とかという所に行こう!
音楽研究の女の子はインドネシア語も出来るようで、もうタクシーを見つけていた。
こうなれば、役に立たない「早稲田」は捨てて女の方に乗り換える。
僕は育ちがいいので「早稲田」の所に行って、ちゃんと別れの挨拶をする。
「僕はあの女の子達と、何やら言う遺跡に寄って行くから。君は1人で行ってよ。○○君(僕がナイロビで世話をした早稲田探険部の男だ)に会ったらよろしく!」
僕はなーんて礼儀正しい、きちんとした人間なのだろう。
「表の道に出ればローカルバスが走ってるからそれを使うと安いよ」と、親切なアドバイスもしてあげる。
女の子達と一緒にプランバナン遺跡を見て、日の暮れるころジョグジャの市内に到着。
心当たりのホテルはあったのだが、面倒なので女の子達と一緒のホテルに泊まった。
遺跡の入場料とタクシー代込みで僕が払ったのが4000ルピア(280円)。
泊まった「ZAMRUD」のホテル代がシングルで1万ルピア(700円)だった。
ジョグジャカルタの場合は一度は頼りにならない旅行者を捕まえた訳だが、もっと利用出来る旅行者を見つけた時はすぐに乗り換えた。
さて、これが、旅行の基本だということを理解してほしい。
【写真】プランバナン遺跡
【旅行哲学】空港から町へ、似たような旅行者を見つけて、タクシーの相乗りをするのが旅行の基本。
