セラ寺で灯明にバターを入れる@ラサ/チベット
成都の交通飯店の旅行代理店では、僕は「飛行機でラサへ、三泊四日のホテル付き、ラサ観光つき、ゴルムドへのバスチケット付き」というツアーの一員になって、そのぶんの料金を払っていた。
しかし、ゴルムドへバスで行くかどうか、それは考えてなかった。
ただ一番安いツアーコースだったから選んだだけだ。
この時期、チベットへはツアーに参加するというタテマエでないと入れなかったので、ほとんどの人はこの一番安いコースを選ぶ。
そのあとラサから飛行機でどこかへ飛んだり、また陸路で山越えをしてネパールへ抜ける場合、このゴルムドへのバスチケットは無効になる。
つまり、旅行会社の儲けになるわけだ。
それは僕はわかっていた。
ラサを見物したあとで、西安へでも飛んで、そこからゆっくりとシルクロードを進むことも、一つ考えてはいたんだ。
が、ラサにいる間に「ここはひとつ、ゴルムドへ抜けるしかないな…。ゴルムドへ行きさえすれば、またバスで敦煌へ抜けられるみたいだし」と思い始めてきた。
海外個人旅行というものは、「どれだけ他人に自慢できるか、これが問題(世界旅行主義)」なわけで、チベットへ行ったら、陸路でカトマンズへ抜けるか、ゴルムドへの地獄バスに乗るか、この二つしかネタはない。
それでも、慎重な世界旅行者は、ラサのバスターミナルへわざわざ行って、寝台バスがどういうものか、チェックを入れていた。
それで、「確かにバスは汚いが、横になっていさえすれば何とか自分の年齢でもやれるだろう」という感想を持ったね。
それで、「TASHT TARGAY HOTEL」にある、このツアーを主催している旅行代理店へ行って、僕のバスの切符をくれ!と要求する。
すると、「明日の朝、ホテル前に来れば、車でバスターミナルへ送るから、そのとき切符を渡す」という。
もちろん僕は、中国人の旅行会社の話を信じていない。
僕が思ったのは、「多分ウソだろうが、旅行会社に騙されるのも話のネタだから一応引っかかってみよう」ってことだったね。
で、予想したとおり、翌朝ホテルで待ったが、誰も現れず、見事に騙されてしまった。
ここで「馬鹿にするんじゃない。ゼッタイに切符を取り戻そう!」と決意するのが元気のいい若者だね。
若者はそうでなくてはいけないよ。
僕くらいの歳になると、「中国の旅行社に騙されるのもいいじゃないか。ここでケンカしても時間が無駄なだけだ」と、悟って(諦めて)しまっている。
そこで、ツアーの予定には入っていながら、「面倒なのでここでおしまい!」と、切り上げられてしまった「セラ寺」へいくことにする。
セラ寺へはジョカン寺前の広場の端から、北行きの5路のバスが出ている。
バスに乗るとけっこう広い道を山の方へだらだらと上っていった。
道はまっすぐでちょっと右へ回ったと思ったら、それがセラ寺前の広場だった。
開いていた店で、灯明用のバターとバターをすくうスプーンを購入して、さらにお寺を上っていった。
セラ寺の僧院は階段状に上へ上へと連なっている。
その僧院に次々に入っていって、灯明へバターを継ぎ足してまわりました。
セラ寺は、他のお寺と違って人がほとんどいなかったので、個人で回るにはいいでしょうね。
さて、このセラ寺とは、「チベット旅行記」を書いた河口慧海が学んでいたところだそうで、僕がここへ行ったのは、その導きかもしれないな、なんて思いましたよ。
【写真】セラ寺
【旅行哲学】騙されてもそれを受け入れるのも、旅のテクニック。